「近代資本主義の父」と呼ばれる「渋沢栄一」(しぶさわえいいち)が遺した言葉は、後世に大きな影響を与えました。そんな渋沢栄一の金言は、現代においても多くの本で学ぶことができるのです。大正時代から100年以上続くベストセラーである渋沢栄一の著書「論語と算盤」を中心に、渋沢栄一の経営術や思想に触れていきましょう。
論語と算盤
1916年(大正5年)に出版された「論語と算盤」は、「渋沢栄一」(しぶさわえいいち)の著書のなかでも最も有名な1冊で、現代まで続くビジネス書のベストセラーとして知られています。
論語と算盤は、渋沢栄一の著作ではありますが、渋沢栄一自身が執筆した物ではなく、渋沢栄一が講演で発した言葉をまとめて編纂した物です。
これらの口述記録は、もともと、1886年(明治19年)に渋沢栄一を慕う経済人によって発足された「竜門社」(りゅうもんしゃ:現在の渋沢栄一記念財団)が発行していた「竜門雑誌」に掲載されていました。ここに掲載されていたもののなかから、テーマ別に編纂して出版されたのが論語と算盤なのです。
それでは、論語と算盤というタイトルは何を意味しているのでしょうか。
渋沢栄一の名言のひとつに「右手に算盤、左手に論語」という言葉があります。「算盤」は経済活動を表す道具で、「論語」は中国の思想家「孔子」が説いた古典のこと。これは、「お金」と「道徳」という相反する2つの事柄を意味し、渋沢栄一は、この2つのどちらも大切だということを説いているのです。
つまり、論語と算盤は、「お金儲けだけでなく、道徳も大切」という渋沢栄一の考えを軸に、経済と道徳の関係性を説いた本となっています。
渋沢栄一による論語と算盤には、道徳と経済を両立するための自説が、全10章にテーマを分けられて語られているのです。どのような内容が書かれているのか、1章ごとに簡単に解説します。
社会で常識を身に付けるために必要な「智・情・意」の3要素について説かれています。
これは、「知恵」、「情愛」、「意志」を意味しており、渋沢栄一はこれらを古くからの習慣で身に付けることができると唱えているのです。
侍時代の渋沢栄一
古来より日本が大切にしてきた「武士道」と、商売における「実業道」は同じだということが説かれています。
この章で渋沢栄一は、経済界で武士道が軽んじられていることが間違いであると主張しています。
商人こそ武士道を持ち、武士道とはすなわち実業道であるのだと唱えているのです。
渋沢栄一は、武士道を持って生きていけば、日本は世界にも負けることはないだろうと考えていました。
このように、論語と算盤では10章に亘って、渋沢栄一の唱えた道徳と経済を両立することの大切さが記されています。論語と算盤が、経済を学ぶためだけでなく、人生における指南書として、これまで多くの人々に愛読され続けてきた理由が分かるのです。
ぜひ論語と算盤を読んで、渋沢栄一が掲げた思想や教えをより深く学んでみてはいかがでしょうか。
雨夜譚
論語と算盤以外にも、渋沢栄一の言葉を読むことができる1冊があります。
それは現在、岩波文庫から出版されている、渋沢栄一の自伝「雨夜譚」(あまよがたり)です。これは、渋沢栄一が座談のなかで、自らの半生を子弟に対して語ったもの。
幕末維新の時代に青春期を過ごした渋沢栄一の怒濤の人生が自身の言葉で語られている雨夜譚は、渋沢栄一が生きた時代を初心者でも身近に感じ取ることができる1冊だと言えるでしょう。商人から幕臣となり、新政府から実業界へと身を移すまで、渋沢栄一の激動の半生を綴った雨夜譚は、渋沢栄一が残した貴重な伝記資料でもあります。
また、雨夜譚には、渋沢栄一の半生と共に、「維新以後における経済界の発展」も収録されているので、維新後の日本の経済史を渋沢栄一の視点で学ぶこともできるのです。